相続・遺言を中心に大阪で行政書士事務所を運営しております、行政書士の尾桐です。
この記事をお読みくださりありがとうございます。
そろそろ”終活”を始めようと思ってはいても、何から始めればいいのかわからないという方のためになるように終活にまつわるあれこれなどについて綴っております。
今回は遺言書の役割やメリットについてです。
遺言書は何のために残すの?
そもそもなぜ、遺言書があった方が良いのか?についてです。
遺言書は家族に送る最後のメッセージであり、自分の財産についての最終的な意思表示を明確に伝えることのできる文書です。
遺言書があった方が良いとされる大きな理由は、ご本人の意思が明確に示されるため、それにより残された家族(相続人)は迷うことが少なくなり、無駄な揉め事をあらかじめ防ぐことができるということです。
遺言書さえあればもっと円満な相続になっていたご家庭はたくさんあると思いますので、やはり遺言書は無いよりあった方が良いと言えます。
ただし色々と法的な決まりがあるので正しい遺言書を作成することが大事です。書いたあとでやり直すのがめんどうになり、書くのをやめてしまった。とならないように事前に遺言書の正しい知識を付けておきましょう。
これまであまり遺言書について真剣に考えたことが無いという方にも、遺言書の役割やメリットをお伝えすることで、少しでもご自分の終活について考えていただくきっかけとなれば幸いです。
遺言書を作成する人の現況
皆様の周りで遺言書をすでに書いたよ!という方はどのくらいいらっしゃるでしょうか?
2019年の法務省が行った全国の55歳以上の約8,000人を対象とするアンケート調査によりますと、全体で「自筆証書遺言を作成したことがある(3.7%)」「公正証書遺言を作成したことがある(3.1%)」でした。 世代別に見ると、作成率が最も高いのは75歳以上で「自筆証書遺言を作成したことがある(6.4%)」「公正証書遺言を作成したことがある(5.0%)」との回答でした。
この結果からわかるように、遺言書をきちんと作成している人の割合はかなり少ない状況です。
しかし今後、自筆証書遺言を作成する見込みである方は約20%ほどとの結果も出ています。
2020年より法務局での「自筆証書遺言保管制度」が始まったことにより、徐々に遺言書を残そうとされる方が増えてきているようです。
しかしながら遺言書に何を書くのか、正しい書き方がわからないとの理由で遺言書の作成に躊躇されている方もまだまだ多く、そういった方に向けてもっとわかりやすくお伝えし、遺言書の作成をサポートすることが大切だと思っております。
参考:法務省〈我が国における自筆証書による遺言に係る遺言書の 作成・保管等に関するニーズ調査・分析業務〉https://www.moj.go.jp/content/001266966.pdf
遺言書の役割
そもそも遺言書を作成しようと思わない方で多いのは「それほど財産なんて無いから」「うちは家族みんな仲良いし、揉めることなんて無いから」とおっしゃる方が多いです。
ですが、そのような理由で遺言書を残さなかった方の相続でこそ、揉め事になっていることが多いのです。
令和5年の司法統計によりますと、家庭裁判所での遺産分割を取り扱った件数は13,872件であり、その財産額の割合は相続財産が5,000万円以下の家庭が多くを占めています。そしてその4割ほどが相続財産1,000万円以下ということです。つまり、財産がそれほど多くない家庭の方が揉め事になっているということがわかります。こういう場合に遺言書が残されてあれば揉めることは無かった可能性は大いにあると思います。
遺言書を作成するかどうかは相続財産の多さではなく、ご自分の築いた財産をどのように引き継いでもらうかというご自分の想いをご家族に伝えるために作成されると良いと思います。また遺言書があれば残されたご家族は原則として遺産分割協議をする必要がないため、相続の手続きもスムーズに進み、家族間の揉め事が起こる可能性も低くなります。
ただし、形式が正しいものでないと遺言書があっても認められないこともありますので、できれば遺言書を作成する際には専門家のサポートを受けられた方が安心です。
参考:最高裁判所〈令和5年司法統計年報〉https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/719/012719.pdf
遺言書を残すメリット
ご家族間で普段から相続について話し合いができているご家庭はそれほど多くないと思います。
特に相続を受ける側(子供など)からすると親に対して相続のことはなかなか言い出しにくいことです。
また一部の家族だけにご自分の財産をどうするかを話していたとしても、他の家族からすると信用できずその通りの相続になるとは限りません。「俺はこう言われていた!」「私にはこう話していた!」「お前に任せると言われていたんだ!」などとご本人が亡くなっているため確認のしようがないような論争が生じるかもしれません。
こうなると遺産分割協議がなかなか進まず相続が完了するまでにかなりの時間を費やすことになりますし、精神的にも疲労することになります。協議では決めることができず調停や裁判などに発展すると相続が完了するまでに1年、2年とかかってしまうことは多々あります。紛争に発展した際の弁護士費用も余分にかかってしまいます。
やはり揉め事なく相続人全員が納得する相続になるためには、きちんとした遺言書でご本人の意思がはっきりと示されていた方が良く、残された家族はそれに従えば良いので納得を得ることができやすいと思います。
普段から相続について家族間で話すことができていなくても、遺言書を残しておくことでその意思は伝えることができます。
別の観点でのメリットでは、相続人の中にご自分の意思表示ができない人(認知症や精神的な障害をお持ちの方など)がおられた場合には、協議をする際にその方たちに後見人を付けることになります。後見人は家庭裁判所に申立てをしてからすぐに決定するものではありませんので、それまで相続手続きを進めることができなくなり、後見人の費用なども発生します。
この場合も、遺言書が残されてあれば、相続人の協議は必要なく遺言書の通りに相続をすれば良いのでわざわざ後見人を付ける必要もなくなります。これは大きなメリットになります。
まとめ
ここまで”遺言書はなぜ必要か?”についてお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか?
遺言書を作成するためには、まずご自分の財産を調べたり、事前に処分するなどしますのでそれと共にこれまでのご自分の人生を振り返る良いきっかけになります。また、これから先のことをもっと具体的に考えることにもつながります。
お元気なうちからしっかりとプランを立てて計画しておくことで、もしもご病気で動けなくなったときや認知症になってしまった時の対策をご自分である程度決めておくことができます。
遺言書なんて大げさだからエンディングノートでいいんじゃないの?と思われる方も多くいらっしゃると思いますが、残念ながらエンディングノートには法的な効力はありません。ご自分の身の回りのことや、希望などを伝えるために遺言書とは別で書いておかれると良いと思います。
きちんとした遺言書を残しておくことは家族に対する”思いやり”ですので、元気なうちにきちんと決めてその想いがご家族に伝わるように準備しておきましょう。